2007年12月04日

江戸時代のしぐさ/浜畑賢吉

江戸時代のしぐさに学ぶ

浜畑賢吉 なにわ ともあれ 連載
産経新聞 2007年9月18日

 「てやんでえ、べらぼうめ、こちとら江戸っ子でえ!」
なんて言葉が江戸弁の代表のように言われているが、
実はそんな荒っぽい言葉は「手斧(ちょうな)言葉」と
言って、本当の江戸っ子は使わなかったらしい。

 言葉だけではない。毎日の生活で他人と接する都会人
は、そのしぐさを大切にしていた。

 江戸時代の商家では、子供はまず講という塾に通わせ
て、しぐさを学ばせる。八百項目とも言われるしぐさを学
んで、初めて江戸っ子の仲間入りをさせてもらったそう
だ。
 雨の日に傘同士かすれ違うときは、互いにしずくのかか
らない方へ傘を倒す「傘かしげ」。 「人の話を耳で聞くの 
は失礼、身体でしっかり聞きなさい」 「相手は自分より偉 
いと思うのですよ」 「弱い人が、に威張ったりするの趾奈で
すね」 「歳をとったら偉そうにしないで、若い人を笑わせ
ながら何かを伝えた方がイキ七よ」 「太りましたねとか、
身体のことを口にするのも野暮ですね」 
        
 要するに他人と接する限り、いかに気分良く共生でき 
るかを考えて生きていた。その生き生きした生き方がイキ
なのだ。他人を無視して生きる今の都会人の生き方は、
「井蛙っぺ(せいあっぺ)」と呼ばれた。井の中の蛙と
いう意味だろう。

 たくさんある中で好きなのか、「景色はみんなのもの」 
である。いい言葉だ。だから ♪ 甍の波と雲の破、重なる波
の中空を・・・なんて歌が生まれてきた。今の都会の建物は
それぞれが「カラスの勝手でしょ!」で作られている。景色
を共有するセンスなど全くない。まさに”井蛙っぺ″の世
界ではないか。   
    
 もうひとつ、「三脱の教え」というのがある。入に出会った
とき、年齢を聞くな。職業を聞くな。位を聞くなと教えて
いたのだ。「それを聞くということは、あなたは相手を
先入観で見たいんですね。それは野暮ですよ。自分の目で
しっかり相手をごらんなさい!」という教えである。
相手の血液型を知りたがるのも同じこと。

 江戸の都会人から見たら、私などは全くの野暮てんであ
る。そういう時代に育ってしまったことを嘆くしかない
が、せめて次世代にはご先祖の知恵を伝えてやりたい。
 「江戸のしぐさ」を知って、その努力をしなかったら、私
の人生はなおさら野暮の骨頂になってしまう。
  (俳優、大阪芸大教授)



Posted by jtw at 10:47│Comments(0)
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