2007年11月11日

社会主義の崩壊・共産主義の死/悲しむべき現実。柴田翔

悲しむべき現実
作家 柴田 翔

日本経済新聞 2007年11月6日 あすへの話題

 十数年前〈ベルリンの壁〉が崩壊し、同時に共産主義の夢も死んだ。
共産主義の理想から生まれたはずの社会主義国家はみな独裁的官僚
国家と化し、計画経済は究極の不経済的机上プランとなっていた。

 今や〈社会主義的市場経済〉なる繁栄の中国は実質、開発独裁の
一変形であり、孤塁を守る世襲制社会主義北朝鮮の計画経済は
闇市場と物物交換で危うい余命を保つ。

 だが社会主義の崩壊、共産主義の死は--つまり共産主義の
理想が現実には独裁と停滞しか生み出しえなかったことは--人
類にとって喜ぶべき事態なのだろうか。

 共産主義は、第一に人間の本性が善であり第二に人間知性が
無限の能力を持つことを前提にしていた。一人は万人のために、
万人は一人のために身をささげ、また輝しい人間知性が作る
計画は、社会の全経済活動を狂いなく制御しうる。

 だが人間は自分勝手で冷酷であり、その知性もエゴに歪んで限界
にぶつかる。社会主義の崩壊が示したのは人類についての悲しむ
べき真実だった。

 資本主義は逆に人間のエゴイズムを基盤とする。市場経済は
人間の自己利益追求を動力源とし、かつ人間を、敗北者となる恐
怖を挺子に、利益優先へと誘導もする。それは人間の本性に
根ざすゆえに繁栄する。

 しかしそれを野放しにしたとき何か起きるか。弱者の絶対的
窮乏化と社会の共同性の崩壊。それを予言したのがマルクスで
あり、描き出したのはディケンズたった。そして、それが
共産主義の幻影を生んだ。

 バブル経済崩壊後の市場原理主義は、戦後社会の安定の基盤
を破壊した。失われた社会の共同性を、今後どう再構築するか。
失敗すれば万人が万人に対して狼となる。



Posted by jtw at 12:03│Comments(0)
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。